八王子市の小学校で始まる英語必修化
2020年に英語教育改革が実施されるのをご存知でしょうか?グローバル化への対応として文部科学省が発表しているものです。義務教育から大学教育までの内容が盛り込まれており、以下が主な変更点とされています。
1)大学入試にリスニングとスピーキングが追加される
2)中学校の英語の授業が英会話で行われるようになる
3)小学校英会話教育が早期化される
そのなかでも今回は「小学校英会話教育の早期化」について解説します。現在保育園·幼稚園に通っているお子様をお持ちのご両親は必読です。
2020年教育改革:小学校英会話教育の早期化とは?>
小学生のカリキュラムに影響がある内容としては以下の二つです。
·小学3年生から英会話学習の必修化
·小学5年生からの教科化
「必修化」「教科化」と言われてもピンとこないかもしれませんので、順番に解説していきます。
まず「必修化」とは、文字通り「学校で英語が必ず教えられること」で、2020年から年間35コマの英会話が小学校3年生から義務化されます。現在は、2011年度に小学5年生からの英語活動が義務化されており、それが低学年化される形になります。
必修化とはいえ「教科」ではないので「外国語活動」と呼ばれ、英語の音に親しみコミュニケーションに対する関心·意欲を育てることを目標としています。「話す」「聞く」がメインで、アルファベットや外国語のリズムに慣れる体験型学習です。
そして次に「教科化」とは、国語や算数と同じように検定教科書(文科省の検定に合格した教科書)を使い、テストが実施され成績がつくようになることです。したがって、今までは中学生から始まっていた「読み·書き」も小学生のうちから習うことになります。2020年からの学習指導要領では年間70コマ、週3コマほどの授業量になるとされています。(グローバル化に対応した英語教育改革実施計画:http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2014/01/31/1343704_01.pdf)
「成績がつく」ということは、児童や保護者だけでなく、進学塾業界にも大きく影響を与えることが予想されており、特に私立の中学校入試に英語がどう取り入れられるかが注目です。
日本の小学校における外国語活動のこれまでの取り組み
現在の小学校5,6年生における外国語活動は、2009年度・2010年度の先行実施機関を経て2011年度より完全実施されました。教科書などはなく、英語を用いて積極的にコミュニケーションを図ろうとする意欲・態度の育成が中心とされており、学級担任だけでなく、ALTや外国語に堪能な地域の人々の活用や協力のもとに行われてきました。
そしてコミュニケーション能力の素地を養うという観点では、外国語活動を通じた成果が出ているというのが政府の見解です。2012年に文部科学省によって行われた「小学校外国語活動実施状況調査」では、小学生の7割が「英語が好き」「英語の授業が好き」と回答し、中学生の8割が「小学校の英語・英会話の授業が役に立った」と回答しており、多くの中学校教員が「小学校の外国語活動導入前と比べて、生徒による英語の「リスニング力」と「スピーキング力」が向上した」と回答しました。
2020年度からの小学校3、4年生への外国語活動の必修化は、英語学習に対するモチベーションや聞き取り、発音の向上に効果があると考えられています。音声を中心に理解を深めることは、小学校高学年児童の発生段階よりも学習効果が高いと言われているからです。
TEDプレゼンテーションに登壇したワシントン大学の教授によると、言語習得の臨界期は7歳までをピークにどんどん減少していきます。また、英会話と日本語では周波数帯に違いがあり、日本人は歳を重ねるごとに英語の高周波を雑音と認識する傾向が強くなってしまうのです(日本語は150~1,500Hz、英語は2,000~12,000Hzを主に使うとされています)。
出典:https://www.ted.com/talks/patricia_kuhl_the_linguistic_genius_of_babies/transcript?language=ja
しかし、低学年から外国語活動に取り組む小学校の約15%では、小学校高学年で学習意欲が低下する傾向が見られる例もあるようです。今回導入される教科化では、高学年における「リーディング力」や「ライティング力」が含められます。系統的な外国語教育を導入することで、児童の外国語の表現力・理解力が深まり、学習意欲が向上することが期待されています。
必修化·教科化のスケジュールと内容
具体的な内容を見てみましょう。
出典:http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2014/01/31/1343704_01.pdf
小学校3年生からの必修化では、3、4年生で年間35コマの外国語活動が義務化されます。これに先立ち、2018年度から年間15コマが導入される移行措置がとられることになっています。
現状では小学校5、6年生で行われている、「話す」「聞く」中心の歌やゲームなど英語に親しむ取り組みが前倒しされることになると言われています。外国語学習の初期段階であるため、積極的にコミュニケーションを図る態度の育成に重点が置かれます。
5年生からの「教科化」について、指導要領によると、小学校卒業時点で600語から700語程度の英語を身に着けることを目標としています。「話す聞く」だけでなく「読み書き」も盛り込まれると言われています。
評価内容はまだ検討中であるようですが、語彙や文法等の知識の量ではなく、パフォーマンスなどを文章記述や数値などによって評価することが考えられるようです。
• 言語や文化に関する気付き、
• コミュニケーションへの関心·意欲、
• 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度、
• 「聞くこと」「話すこと」などの技能
などが挙げられています(文部科学省:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/102/houkoku/attach/1352464.htm)。ただし、中学校で学ぶ内容を単に前倒しするのでなく、発達段階を踏まえた具体的な学習評価の在り方を検討する必要があるとしています。
英会話学習の低学年化への課題と懸念
1)母国語の習得がおろそかになる?
賛否両論ある英語学習の早期化。
反対したり、心配したりする意見として代表的なものが、「日本語習得が疎かにならないだろうか?」「日本語もままならないのに外国語なんてやって中途半端にならないか?」というもの。
しかし、その心配が杞憂であることはお隣韓国が証明しています。韓国では、1997年に小学校3年生から英語が必修化されました。それにより韓国人の英会話力が向上したことは広く知られており、TOEICやTOEFLの点数にも表れています。TOEIC公式サイトによると、2015年の日本人の平均スコアが513点であるのに対し韓国人の平均は670点と、150点以上の開きがあります。
そして、「英語の必修化によって母語である韓国語習得への悪影響はなかった」との見解も様々なデータが示しています。韓国人の保護者への意識調査によると、英語学習による国語やアイデンティティへの影響について、「ハンブル文字と文化に対する関心」「ハングルに対する自負心」「ハングルの大切さ」「韓国人としてのプライド」は肯定する割合が高かったことがわかっています。(berd.benesse.jp/berd/center/open/report/sho_eigo/hogosya/pdf/data_06.pdf)
2)コマ数の変化
しかし、国語をはじめ従来の授業数は変えないとなると、物理的なコマ数の増加は避けられません。小学校高学年の授業数は、現在45分授業が28コマ。小学校ではこれが限度だそうです。小学5、6年生の例で言えば、現在週1回行われている外国語学習にもう1コマ追加し、さらに足りない分は朝や昼に15分の「モジュール科目」として充てることも提唱されています。(図参照)
出典:http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/__icsFiles/afieldfile/2014/01/31/1343704_01.pdf
3)教師の不足、キャパシティ
多くの現職教員が、自分が受けてきた英語教育とは大きく異なる方法で指導や評価を行うことが求められています。そのことに対応できる教員を養成するための研修が課題となっていることを文部科学省も認め、対応を急いでいます。
音楽などのように専門教員を配属するのか、担任が対応できるようにするのか、また、ALTの活用における地域間格差など、教育現場や政府が考慮していかなければいけない課題は山積みです。
4)小学生から成績がついて、英会話嫌いにならないか?
今回の改革による直接的な変化は、英語に成績がつくことと、先述した中学受験への英語の導入でしょう。また、小学校卒業時に最低限の英単語を身に着けることが前提とされているため、中学校ではより対話的な授業が全て英語で行われるようになります。
小学生の時に一度つまづいてしまうと、中学校でも授業についていけなくなったり、授業を右から左へ聞き流すようになったりしてしまうかもしれません。成績がつくことで、英語に苦手意識を持ったり嫌いになってしまったりするかもしれません。
そこで、教科としての英語だけでなく、英語そのものと小学生のうちから上手く付き合っていく必要があります。
小学生は、英会話教育の早期化にどう準備すべきか?
懸念材料は多々見られますが、言うまでもなく、これらのは加速するグローバル化に対応したものです。ヒト・モノ・カネが移動しやすくなった時代となり、外国とは無関係と思われる業界・地方でも英語でのコミュニケーション能力が求められるようになっています。
前項までの内容を考慮すると、小学生のお子様に必要とされていることは具体的に以下の3つと言えるでしょう。
1)英語が楽しいと思えること(モチベーション)
→2)小学校から(高校まで)英語の授業についていけること(純粋な英語力)
→3)中学受験をするのであれば、その対策(英語のテスト)
母国語に「苦手意識」が芽生えないのと同じように、幼い頃から英会話に親しむことで英語にも苦手意識を芽生えさせないことが、「教科としての英語」に対応するいちばんの「準備」かもしれません。
下の図を見てください。アメリカ人の赤ちゃんと日本人の赤ちゃんに、との発音の違いを聴き取らせた実験の結果です。生後6〜8ヶ月の両国の赤ちゃんのリスニング力に大した差はないものの、2ヶ月経って1歳の誕生日を迎える頃にはとの違いを聴き取れる割合が、アメリカ人の赤ちゃんは80%以上に上昇し、日本人の赤ちゃんは下降する一方です。
出典:https://www.ted.com/talks/patricia_kuhl_the_linguistic_genius_of_babies/transcript?language=ja
これは、日常の中で赤ちゃんが聞いている「ラ」の音がとの中間音であるからです。こうしてこの早い時期から、赤ちゃんは文化になじむ準備を始めているのです。英語脳を育てるには、始めるのが早ければ早いほど良いということがおわかりいただけるでしょうか。
八王子さくらアカデミーでは、小学生はもちろん、1~2歳から大人のコースまで幅広いクラスをご用意しています。「聞く」「読む」「書く」に加え、対話力やプレゼンテーション力を育てるため、小学生のコースでもニュース記事について自分の意見を発表したり、仲間の意見を聞いたりなどの授業が導入されます。
おわりに
今回の改革では、今までの学校教育では身につけることが難しかった「使える英語」を、小学校から大学入試まで一貫して見直し取り入れることで、きちんと身につけられるようにすることが狙いです。8~9歳から英語を話したり聞いたりすることに慣れ、次の段階として読み書きの能力も小学生のうちから成績できちんと評価されることにより、これまでよりも義務教育内での英語を学ぶ内容の連携が良くなることが期待されています。